沼尻元湯1
沼尻元湯
No.005
-numazirimotoyu-
沼尻元湯-その1-
自噴独自源泉No.1
福島県 猪苗代町 
2006/09/25 訪
2007/03/30 up
美しき荒涼…!
 沼尻元湯は現在の沼尻温泉の源泉地帯である。 明治期までは元湯に旅館が建てられていたが、硫黄採掘が盛んになると旅館を現在の沼尻温泉の位置に移した。
元湯には現在でも昔の面影が残っており、数年前まではかつての旅館が廃墟であるが現存していたらしい。

開湯230年、開湯以前からもその存在が知られ長い間利用されてきたのであろうと思わせる。
なにせその規模が大きすぎる。自噴独自源泉にして毎分9000gの湧出量は、玉川温泉に並び同立一位。 これほどの湯量があれば必ず誰かが所在を追及するはずである。
有り余る湯はその多くが利用されること無く流され、その湯が湯川を形成している。 その湯を求めてこの地を訪れる者も少なくない

沼尻温泉

 中ノ沢温泉を抜け沼尻温泉の看板に従い道を辿ると沼尻温泉スキー場に行き当たる。
写真左にあるのは沼尻温泉の老舗旅館、田村屋だ。

今でこそ近代的風貌の旅館であるが、当時はこの先の元湯に旅館を構えていた。 田村屋館内にその往時の写真が飾ってある。

入湯料は800円ナリ。
スキー場横の坂道を登っていく。
オフシーズン中は動かないリフトが寂しげぶら下がっている。
誰もいないゲレンデは見晴らしが良い草原の丘だ。林道を傍目に九十九状になった坂をくねくねと上る。 ダートであるが道は悪くない。

10分くらい上っただろうか、まだかよーこんちきしょーと地図上ではさほど長くない距離なのだが、 なかなか現れない行き先に些細な不安を感じ始めたその時、視界が開け駐車場らしき広場が現れる。

ここは安達太良山登山道入口、沼尻元湯のルートでもあるがそれを明記する手がかりは見受けられない。 公的には推奨できない場所なのだろうか。立ち入り禁止の表記はないが間違いなく歓迎されない雰囲気がある。  
登山道入口、沼尻元湯の立入りを推奨できないヒントがそこにあった。

鎮魂の碑。

これは凡そ10年前に沼の平でおきた火山性ガスによる死亡事故に由来するものだ。
視界が開けないガスのなか誤って噴気地帯に迷い込んでしまったらしい、それで突如倒れた仲間をたすけようと後をおった方も 火山性ガスでやられてしまったという。

沼尻元湯にも源泉地帯であるがゆえにガスが滞留する危険性がある。風がない日にはガスが滞留し致死量に達する可能性もあるかもしれない。 まぁそういう理由であろう。

おのずと合掌していた、安らかにお眠りください。
 登山道は整備され上りやすい、最初だけだったが階段に手すりまで着いている個所もある。

楽勝だなこりゃと思ったが少し浅はかだった。 この先斜面がつづく、

    ・・・あ!軍手ねぇよ!
ポケットにぶら下げておいた軍手の片方がどこかで落ちてしまった。 たった200円程度のゴムの軍手だが、この山中で調達すべはもちろんない、大事な登山道具の一つだ。 しかたなく軍手を探しに行く。

「馬鹿か!俺!馬鹿か!俺!」と心の中心で叫んだ。
軍手を落とし探しに行く手間、急な斜面を二度登ったことになる。

愚かですよね・・・
 
坂道の途中、休憩所をかねた展望台、というかただの小スペースなのだが 展望台では温泉の滝である白糸の滝が俯瞰できる。
名前の通り白糸だ。同じ湯滝である河原毛地獄の大滝に比べると豪快さにかけるが、温泉の滝として希少なのだ。 けど白糸
坂道はそう長くはなかった。急峻ではあるがここを越えればこの先はなだらかな道が続く。
草木が高く生い茂りほぼ壁状になって両サイドの視界はない。
木のトンネルといえばいささかメルヘンチックであろうが・・・、

こう前方が見えないと、不安だ、不安だ。
いきなり「クマー!」と出てきてもらっても困る。もし人がクマー!と出てきても 卒倒するだろうが、無論そんな人はいない。

ただしこのような硫黄臭の漂う場所は獣は避けるのではないかという憶測があるが。 ただの憶測でありちょっとした思い込みによる安心材料にしかならない。つまりあまり意味ない。

そう、そうだ硫黄臭がただよってきている。
今日は微風だが風は吹いてはいる。先は遠くない。

秋の準備に入る木々、徐々に色付き真赤になるのも時間の問題であろう。 9月何日はまだ夏と秋の間、まだまだ緑色木はふさふさと元気いっぱいに生い茂っている。    ・・・邪魔だ  

沼尻元湯 分岐点

登山道分岐地点が見えてきた。

右は安達太良山、左は・・・明確な表記はないが沼尻元湯だ。
その証拠にこの先すばらしい展望が待っている。


それにしても・・・登山道の標識の位置が罠だと思うのは私だけだろうか。

※カーソルを合わせると写真が変わります
すばらしき荒涼が広がる。
緑と白のコントラストは明瞭に植物の生殖を隔てている。
眼下に広がる白こそ、沼尻元湯他ならない。

このような風景を見せ付けられてはその足もおのずと速くなるもの
だがここはあせらずゆっくりゆっくり傾斜を降りていく。

ここであせって怪我、あるいは転落もしたらしゃれにならない。
道と言っても安全をはかる手摺なぞ当然ない。道はただのガレ場同然だ。

※写真をクリックするとちょっと拡大します。
下るにつれて硫黄臭も強くなる。なるほど、
これは危険の範疇だ。

無風時は危険だ。死亡事故がおきてもおかしくないことを実感した。

その昔ここは硫黄鉱山であったらしいが、この切り崩した斜面がその痕跡だろうか。
山が切り崩され、 その砂礫の山肌がところどころあらわになっている。
すぐそこまで湯川が迫ってきている、その奥に見えるのは作業員用の休憩所だ。
田村屋旅館の遺構ではない、
と言うのも道すがらであったハイカーのおじさんに

「あれが、昔営業していた旅館のあとなんですよー。」

と意気揚々と語ってしまった。

跡なんですよー、なんですよー、デスヨー、よー

デスヨの最近は〜誤ることいっぱ〜い
・・・

罪悪感と自分のバカさ加減に記憶の言葉にリフレインがかかるほどだ。 ハイカーのおじさん嘘ついてゴメンナサイ…マジで
木製の足場が奥へ伸びている。
右側に分岐しているように見えるが、明らかに木は朽ち足場としては頼りない。
だがまだつかわれているのだろう。その先には湯の華採取ようの木管がずらっとどこまでも続いている。

しばしば辺りを散策する。 湯川を渡り対岸へ出る。
それにしても…閑散としているが、閑散と言うには忍びない美しさがある。
自然の美しさもあるが、人工美でもあるノスタルジックな雰囲気。

どこか廃村にも似た朽ちた美しさ。
良く見るとところどころに現代とものとは思えない遺構が点在している。
地面を見れば木板や木管が散乱している。
230年の歴史はメンテナンスなしには維持できない。 そんなことは当たり前だが、こわれた木材が積み重なり、文字通り歴史が積み重なっているようだ。
立入り禁止の立て札。
奥まで木管がつづく。硫黄採取用の木管だ。
よくみるとそこらじゅうに湯の華が散乱している。